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不整脈の遺伝子診断と治療

鷲塚 隆 器官制御医学講座 循環器学分野
washi@med.niigata-u.ac.jp

 近年、不整脈発症のメカニズムについての精力的な研究が行われ、その理解も急速に進んでいます。その中でも心筋のイオンチャネルの遺伝子異常によって引き起こされる病態が存在することが、分子生物学的、細胞電気生理学的に明らかとなり、「遺伝性不整脈疾患としてのイオンチャネル病」の概念が確立されつつあります。ここでは、まずイオンチャネルとは何か?また、その代表的疾患である先天性QT延長症候群についてお話したいと思います。

1.イオンチャネルとは?  心筋に限らず、細胞膜表面にはイオンを通過させる蛋白の穴が存在し、それをイオンチャネルと呼んでいます。イオンチャネルには多くの種類があり、Na+を選択的に通すもの、Ca2+を通すもの、K+ を通すもの等様々なものがあります。そのイオンチャネル開閉により活動電位といった細胞の電位変化が生じ、心筋の興奮がつかさどられているわけです(図)。そして、個々の細胞の活動電位の総和が心電図波形を形成するわけです。15年程前にパッチクランプ法という細胞電気生理学的実験法の開発により、細胞一つのイオンチャネルを通過する電流の総和や単一のイオンチャネルの電流(約1~3ピコアンペア)といった微小電流を解折する事が可能になりました。また、最近の分子生物学の発展により、イオンチャネルの分子構造が解明され、遺伝的にそのアミノ酸配列に異常がある疾患が明らかとなってきています。そのチャネル遺伝子の異常を同定し、異常遺伝子を培養細胞に発現させパッチクランプ法で電流を測定することによって、その遺伝子異常が活動電位の変化をもたらし不整脈発症の原因となるか否かが明らかとなったのです。

2.先天性QT延長症候群とは?
 心電図上、著明なQT時間の延長が認められ(図A)、突然脈拍が乱れて立ちくらみや意識消失発作を生ずる遺伝性の病気です。発作時には典型的な多形性心室頻拍であるtorsade de pointes (Tdp) が認められ(図B)、突然死の原因ともなります。



 しかし、発作の生じない場合には無症状であり、診断には心電図検査が最も有用です。また、家族や親類に若年者での突然死症例がいる場合も注意する必要があります。原因としては前述したイオンチャネルのうちNaチャネルとKチャネルの遺伝子異常が報告されています。NaチャネルやKチャネルの異常によって心筋の活動電位の延長がおこり、心電図上QT時間の延長として反映されるのです。激しい運動や怒りなどの強い情動が発作の誘因となる場合が多いとされており、競技スポーツへの参加は通常禁止します。治療には興奮をおさえる薬剤治療(交感神経の働きを抑制する薬物)や左側の交感神経節の切除術などが行われ、一部ではNaチャネル抑制薬が用いられます。また、徐脈時にQT延長が著しい場合にはペースメーカー治療、以上の治療でも失神を繰り返す際には植え込み型除細動器治療を併用する場合もあります。  従来は経験的に行われていたこのような治療も、イオンチャネルの異常の解明により、Naチャネル異常の方には一部のNaチャネル抑制薬がQT時間を短縮させることや、ペースメーカー治療がより有効であること、Kチャネル異常の方では交感神経抑制薬がより有効であることも明らかとなっており、イオンチャネルの異常に基づいたオーダーメイド治療がなされるようになりつつあります。しかしイオンチャネル遺伝子の心筋への導入といった根本的な治療はまだ実験的な段階であり、今後の研究の成果を待つ必要があります。  このようなイオンチャネル病に関して、我々は多くの症例の治療経験を有し最近では高度先進医療として認められた遺伝子診断も積極的に行っています。このような症例でのご相談等ございましたら当科までご連絡ください。


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