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高度先進医療 歯を削ってつめたり、金属を入れるという発想からの脱却。

吉江弘正 教授
奥田一博 講師


大学病院の3つの社会的役割

 高度先進医療についてお話する前に、大学の附属歯科病院としての社会的な役割について確認しておきたいのですが、それは3つに大別できます。ひとつは高度先進病院という研究的な側面であり、また医療人を育成する教育病院という側面、さらに地域のための中核的な病院という地域的側面に分けられますが、それぞれについて常に考えながら病院の経営を進めていく必要があります。

 そのなかでも、大学として新しいものを開発していくこと、従来型ではない21世紀型の新しい医療体系をつくることが特に重要になってきます。高度先進医療を推進するにあたって、厚生労働省から求められていることは、保険医療で多くの方たちに貢献できるような新しい技術の開発と、ごく一部の人たちにしか施せない先進的な医療の開発ということです。

 国の考え方は、まずある特定の指定された機関だけでやってみなさいということですね。

 そこで、「患者さんにどれだけ喜んで頂いたのか」、「費用はどれくらいかかったのか」という実績を毎年報告して評価を受けることになります。その結果、一部の施設だけではなくてもっと広げた方がいいということになると、保険導入という方向に進むわけです。

 ただし、ここで注意しなければいけないのは、高度先進医療において厚生労働省との関わり合いだけに目が向いてしまうきらいがあるところです。一番大切な地域の方々からの要望を汲み取れなければ意味がなくなってしまいます。その点で、地域保健医療推進部に寄せられる期待は大きいですね。


歯科分野における高度先進医療―歯周組織再生療法―

 再生というのは病気で破壊された組織を元に戻そうという概念ですが、臓器再生・組織レベルの再生・細胞レベルの再生など、いろいろなランクがあります。現実的には、骨・軟骨・粘膜・上皮などの結合組織の再生をはかるというのが、最先端のレベルではないでしょうか。歯科もそれに準じていますが、あえていうならば、医科も含めた医療全体の中で、歯科での再生療法、つまり歯周組織の再生療法は最先端を走っていると思います。

 組織再生を起こすには、細胞・増殖因子・細胞の足場という3つの要素が必要であるといわれています。あとは適切な環境と期間が揃うことで完全再生に到るというわけです。この概念に基づいて開発された治療法について時代を追って解説します。まず足場にだけ着目したGTR法(遮断膜を用いた歯周組織再生)ですが、これは膜を歯に巻きつけて上皮をブロックして歯根膜の組織を再生するという原理です。ただし、積極的に細胞を増殖させる作用はありませんので、治りにくい場合もあります。次に、増殖因子の作用のみに着目したエナメル蛋白を用いた治療法があります。この方法は、歯根の表面にあるセメント質を増殖させるという点では一定の効果が期待されますが、これも不完全です。

 そこで私どもが考えたのが、増殖因子と足場の2つの要素を押さえた多血小板血漿による歯槽骨再生療法です。血液中に含まれる増殖因子を濃縮した状態で採り出して、人工の骨移植材を細胞の足場として絡めて患者さんに戻すという原理です。臨床応用を始めてから60例ほど実施していますが、臨床成績ではよい感触を得ています。

 さらに3つの要素を押さえた療法を紹介します。これは北里大学の黒柳先生との共同研究ですが、部分的に下がってしまった歯肉を再生させる方法です。生体組織と適応性のあるシート状の足場に、患者さん自身の細胞を組み込んだ培養歯肉シートを手術の場に応用するという治療法です。このシートの中では細胞が生きていますから、患者さん自身の結合組織と同じように増殖因子も放出しますし、細胞もある一定のレベルで維持されます。これまでの臨床経過は極めて良好で、現在この療法の症例を増やしているところです。


今後の課題

 受診される方が「この治療法で…」ということはほとんどありません。とにかく大学病院へ行って、より良い治療を受けたいというのが多いようです。その際、新しい先端的な治療法ですから、患者さんに良く説明して十分なご理解を頂き、インフォームドコンセントというサインを頂くようにしています。現時点では、どの治療法が決定的ということはないのですが、長所と短所を十分ご説明して患者さんに選んで頂くというスタンスをとっています。

 経済的な負担についてお話すると、高度先進医療は保険診療と自由診療の中間みたいな立場にありまして、それにかかる投薬や消毒のお金は保険でカバーしますが、使用する特殊な材料などについては患者さんに負担して頂いています。ですから、患者さんが満足感を得るためには、医師による十分な説明と医師に対する信頼感に裏打ちされていることが前提条件のように思います。

 歯科医療も、従来の歯を削ってつめたり、金属を入れるという発想から意識を変えないといけないと思います。歯そのものを再生できるようになると、歯学部のあり方が変わってくる可能性があります。これからの超高齢化社会の中で、生活の質を向上させてどう生きるかという時、食べるということは非常に重要な位置付けにありますが、歯や歯周組織の再生はその点で極めて重要な鍵を握っていると思います。

 今後の研究の抱負ですが、他では歯そのものをつくろうという動きも起こっていますが、私どもは培養骨をつくることを計画しています。そして、軟組織・骨・歯根膜という組織レベルの再生を組み合わせて歯周組織の完全再生を目指そうとしています。

(聞き手:川瀬知之)

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